『SONY CD900ST ヘッドホン』修理と改良│その手順
超ロングセラーなSONY製ヘッドホン MDR-CD900ST。
燦然と輝く“DIGITAL”の文字がレトロ感を醸し出している。
品番のSTという文字がスタジオを意味してるらしい。
もう20年近く前?楽器屋の店員に「プロも使ってる名機だから」と唆され、スタジオも行かなければモニタリングもしない素人なのに買ってしまった。
結局あまり使わないまま押し入れの奥に仕舞われていたのだけれど、耳当てパッドのスポンジが経たってボロボロになっていた。
ずいぶん古いモノだし諦めるしかないだろうな…
と思ったら、SONY純正の補修部品がまだ売られているらしい。
というか、製品自体もまだ継続販売されていた。
調べたら1995年の発売。
25年=四半世紀以上も経っている。
設計自体も古いだろうし、今どきはハイレゾ対応の新モニターヘッドホンもあるのに、何故こんなレトロなヘッドホンが生き延びているんだろう?
と素朴な疑問もわいてくる。
そんなわけで「捨てるのも勿体ないし部品があるなら直したい」ということになった。
CD900ST 修理して改造する
そういえばこの手のヘッドホンはプラグが6.3mm径になっている。
“ステレオ標準”ということらしいが、個人的にはUSBオーディオやプレーヤーに直挿しできる3.5mmの方が使いやすい。
なので、ケーブルを替えるついでにプラグも3.5mmに交換する。
ケーブル無有?
ここで1つ迷ったことがある。
「交換するケーブルって何を選べばいいのだろう?3芯?4芯?」
長さとか太さとか、先っぽのプラグとか、どう選べばいいのかサッパリ判らない。
無有…困った。
そこで考え直した。
今回の修理交換でケーブルやプラグにこだわり過ぎても出費が嵩むだけだし、気が変わったらまたケーブル交換したくなるかも知れないし、後々も悩むくらいならケーブル無しの方がいいのでは?
というわけでケーブルだけ交換は中止。
「ケーブル無し」仕様に変更することにした。
ジャック式にしてしまえば好きなケーブルに挿し替えられる。
3.5mmジャック
ヘッドフォンのスピーカー(ドライバー)には左右それぞれにプラス+とマイナス−がある、ということは素人でもなんとかわかる。
でもなぜ左右で線が4本あるのに3極のプラグになっているのか今いち判らないし、3本4本どちらが良いのか悩むのもメンドクサい。
「左右で4本ならジャックも4極でいいはず」という単純な発想で、3.5mmジャックの4極タイプを探し、マル信電気の MJ-064H という製品にたどりついた。
ついでに、サウンドハウスさんで純正部品を探して調達していたらSONY純正パーツに “折りたたみスライダー” なるモノを発見。
アジャストするスライダー金具に蝶番がついていて、ハウジング部分を内側に折り畳めるらしい。
これはなかなかナイスなパーツ ❢
「折りたたみ式に変更」もメニューに追加となった。
👉今回の 改良&修理 計画
1.古くなった経たれ部品を交換する
2.3.5mmジャックをつけてケーブル着脱式にする
3 . 折りたたみ式スライダーに交換する
4.破損していない部品はそのままにする
準備するもの
交換部品 (SONY 純正部品)
折りたたみスライダー(左右)×各1
ウレタンリング×2 ミクロングラス×2
修理工具
エアダスター ハンダごて 汚れ落としクリーナー
糸ハンダ ニッパ ペンチ(先細ニードルペンチが便利)
作業クリップ台 逆作用ピンセット(共にはんだ付け固定に便利)
※後列から順
3.5mmジャックと図面
マル信電気製「パネル用 3.5mm4極ジャック MJ-064H ×1 」とその図面。
作業手順
1 分解
1)イヤーパッドを外す
「L」「R」と書かれているが、製造工程でつけられたマーキング。
2)ドライバ前面板 右側(R)を外す
3)配線の様子を記録する
※今回作業でR側配線には触れないけど念のため
4)ドライバ前面板 左側(L)を外す
5)配線の様子を記録する
※今回作業のメインになるため正確に
6)ウレタンリングを掃除する
※ボロボロのスポンジカスがいっぱいでた
7)エアダスターでゴミ埃を取り除く
※作業の都度ドライバ中のゴミを吹き飛ばす
8)ヘッドホンケーブルを切断する
※ハウジングぎりぎりで切らず余裕を残す
9)残ったケーブルをL側ハウジングから抜く
10)L側ドライバーユニット配線状態を確認
👉メモ ここからハンダごてを使っての作業あり
11)元ケーブルの太い赤線(R側+の細い赤線と連絡している線)を外す
12)R側から渡ってきている2本の線(赤色+ 銅色−)のはんだを外す
13)元ケーブルのうち白線(L+)と黒線(L−)はL側ドライバー上に残しておく
14)元ケーブルのうち不要な赤線を取り除き
残ったL側の白線/黒線の先端に予備はんだ処理をする
👉メモ 予備はんだ=フラックスを塗ってハンダを軽く盛る処理のこと
15)R側の赤線と銅線の先端にも予備はんだ処理をする
2 L側ハウジング穴あけ加工
1)L側ハウジングをハンガーから外す
2)L側ハウジングのケーブル穴の位置を確認する
3)ハウジングにあるゴムブッシュを引き抜いて外す
4)3.5mmジャックのピンアサイン(配線配列)を確認する
5)L側ハウジング穴まわりに保護用テープ(マスキング)を貼る
6)3.5mmジャック取り付け時に干渉する出っ張り部分を切り落とす
7)L側ハウジング穴を削って広げる
※ドリル刃はプラスチックを割ってしまう危険性あるのでヤスリが安全
8)保護用テープを剥がして確認する
ハウジング部品は全体がプラスチック製だと思っていたが表はアルミ製だった 。
写真⇩穴のシルバーに見える部分
9)L側ハウジング内部のケーブル止めをカット
※ハウジング内の空間確保と接着加工のため
10)L側ハウジング穴表面に傷を作ってしまったので隠すためテーピングをする
※気にしないなら不要
ジャックを仮り挿しして確認。
3 折りたたみスライダーの取り付け
1)折りたたみスライダー左右の区別
※ほぼ同一品でアジャスト数字刻印の位置だけ違う
2)L側から交換 ハウジングハンガー根元のネジを外す
3)L側ヘッドバンド根元のネジも外す
4)ヘッドバンドから元スライダー金具を引き抜く
5)ヘッドバンドに新しい折りたたみスライダーを差し込む
6)スライダー固定部品にラッチ用の金属球を乗せる
7)スライダー固定部品の差し込み穴にヘッドバンド側のスプリング板を入れる
8)スライダー固定部品をネジ止めする
9)スライダー金具をハウジングハンガーに固定する
10)次にR側の交換 ハウジングハンガー根元のネジを外す
11)R側ヘッドバンド根元のネジも外す
12)ヘッドバンドから元スライダー金具を引き抜く
13)ヘッドバンドに新しい折りたたみスライダーを差し込む
14)スライダー固定部品にラッチ用の金属球を乗せてからはめ込みネジ止めする
15)スライダー金具をハウジングハンガーに固定する
4 3.5mmジャックのハンダ付け
1)L側ハウジングにR側2本組リッツ線を通す
2)L側の白/黒2本線とR側の赤/銅リッツ2線の 計4本を仮り配線してみる(未はんだ)
3)3.5mmジャックの4つの端子に予備ハンダをする
4)初めに白/黒色の2本線をそれぞれの端子にハンダ付けする
※比較的丈夫な線から作業すると楽に作業できる
5)次に赤/銅色の2本線をそれぞれの端子にハンダ付けする
5 3.5mmジャックの固定
1)接着剤で固定するための準備をする ※マスキングテープで接着不要な範囲を保護
2)2液性のエポキシ接着剤を練り合わせる
※エポキシはしっかり30秒くらい練り 撹拌の確実な中央部だけ使う
3)3.5mmジャック周りに十分渡る様に接着剤を流し込む
※粘度が高い場合はドライヤで温めてサラサラにして流す
6 吸音材の取り付け
1)ハウジング内部用の吸音材ミクロングラスを用意する
2)R側ハウジングにミクロングラスを入れる
※ハウジング内の配線を側面に回して配置しグラスつぶれを防ぐ
3)L側ハウジングにミクロングラスを入れる
※ジャック部分があたるグラスを少し切り取っておく
7 ウレタンリングの取り付け
1)ハウジングに緩衝材のウレタンリングを貼り付ける
2)ドライバーの円形にあわせて慎重に貼りつける
※この段階では軽く貼るだけで強く押し付けない
3)中央のウレタンスポンジは不要なので取り覗く
※この工程があるので 2)で強く貼らずにおく
8 新しいイヤーパッドを装着する
1)YAXI comfort イヤーパッド
ヘタリの酷かった純正イヤーパッドを YAXIのイヤーパッドに交換する。
2)新イヤーパッドと旧イヤーパッドの厚さ比較 ※左がYAXI
3)イヤーパッドの取り付け
完成
1)外観
2)SONY ヘッドホンケーブル MUC-S12SM1 装着例
3)装着イメージ
まとめ
♪良かった点
①YAXIのイヤーパッドは評判通り、ふわふわな感触でとてもGOOD ❢
②ケーブル着脱式にしたので好きなヘッドホンケーブルを使えるのも嬉しい
③折りたたみ式スライダーにしたので収納時にコンパクト
♪良くなかった点
実は配線が怪しいかも知れない。
ミニジャック化に際して幾つかの『改造サイト』を参考にさせてもらったのだが…
白線と黒線のプラス(HOT)とマイナス(COLD)を正反対に配線しているサイトもあって最初かなり混乱した。
もしかして間違った方の配線をしちゃった感もある・・・
また「ヘッドホンのイヤーパッドは耳とドライバーとの距離を決める重要なパーツなので元の状態から距離(つまりパッドの厚み)を変えてはいけない」などと書かれている記事も読んだのだ。
でも自分の素人耳にはどうせ差が判らないし、着け心地のが優先なのでこちらは無視。
「改良のつもりが改悪」になってしまったかも知れない今回の修理。
でも元の音を知らないし 、 所詮は自己満足の修理だし、また押し入れの奥に仕舞っておくかも知れない?ことまで考えると、「まあ合格レベル」ということにしておく。
♪発見できたこと
それはこのヘッドホンの構造とパーツ構成。
点数も少なく素人でも分解しやすい構造なので、再組み立ても難しくなかった。
そして全てのパーツが入手しやすい、というのも大きなメリット。
つまりどの部位が壊れても全損にはならない安心感がある。
違う見方をすれば、パーツが入手しやすいことで、改造して遊べる良い教材 or 練習台にもなるとも言える。
MDR-CD900STが25年以上もロングセラーな理由はそこにあるかも知れない。