赤外線│非接触『放射式サーモメータ FT3701』開封│レビュー
工作や修理に必要な工作室の道具を紹介する第三十四回め。
今回は『放射温度計 FT3701』。
対象物に触れることなく、離れて表面温度が計れる温度計測ツール。
FT3701 特徴
グリップタイプの赤外線温度計は、国内海外いろいろなメーカーから多くの機種が販売されている。
今回選んだのは日本メーカーHIOKI(日置電機)。
特徴
- 長焦点・狭視野でピンポイント温度測定
- 測定場所がわかる2点レーザーマーカ
- トリガーを引くと測定、離すと値をホールド
- 動作中の機械や感電の恐れがある場所などを離れて計測
仕様
日置電機のグリップ放射温度計には FT3701 と FT3700 2つの兄弟機種がある。
比べてみた表がこちら。
FT3701 | FT3700 | |
測定温度範囲 | -60.0~760.0℃ | -60.0~550.0℃ |
分解能 | 0.1℃ | ← 同左 |
測定確度 | -35~-0.1℃ ⇒ ±10%rdg ±2℃
0.0~100.0℃ ⇒ ±2℃ 100..0~500.0℃ ⇒ ±2%表示値 ※-60.0~-35.1℃ 確度規定なし |
← 同左 |
応答時間 | 1秒(90%応答) | ← 同左 |
測定波長 | 8~14μm | ← 同左 |
距離対視野
|
距離D:視野径S=30:1
3mの距離にてφ100mm |
距離D:視野径S=12:1
1mの距離にてφ 83mm |
照準 | 2点レーザーマーカ
(クラス2 1mW 赤色) |
← 同左 |
表示モード | MAX・MIN・DIF・AVG | ← 同左 |
機能 | 上限下限アラーム
バックライト、オートパワーオフ |
← 同左 |
オートパワーオフ | 約15秒 |
← 同左 |
電源 | 単4形アルカリ乾電池×2 | ← 同左 |
連続使用時間 | 約140時間 (レーザー、バックライトOFF) | ← 同左 |
寸法 | W48×H172×D119mm | ← 同左 |
重量 | 256g(電池込み) | ← 同左 |
付属品 | 取説・携帯ケース・単4乾電池 | ← 同左 |
※太字はFT3701の優位点
測定範囲
測定範囲は測定領域とも呼ばれ、測定ができる”範囲”のこと。
HIOKIの取説では「視野径」と表記されている。
視野径(測定範囲径)は対象物との距離でも変わるが、サーモメータ本体の性能=測定範囲にもなっている。
例えばFT3701とFT3700では視野径が2倍以上違う。
3m離れて測定する場合で比べると、FT3701では視野径がΦ100mmなのに対し、FT3700では約Φ250mmとなる。
広い面積の計測ならそれでもOKだが、狭い面積(ピンポイント)を計測したい場合は、より小さい(狭い)視野径で計れる性能の良い放射温度計が必要になる。
これらを踏まえて、今回は視野径の狭いFT3701を選択した。
写真⇩ FT3701の視野径は、距離が1mの場合 Φ52mm、3mの場合 Φ100mm
FT3701 概観
1 開封
パッケージは全面とも英語表記。
箱の大きさは、およそW115×H208×D66mm。
パッケージ裏側。
FT3701はソフトケースに入った状態で収まっている。
2 付属品
FT3701本体のほかに、取扱説明書、単4乾電池2本、キャリングケースが付属。
取説は八折りの1枚の紙。もちろん日本語。
詳しくは・・・HIOKI FT3701/3700 取扱説明書(PDF)
3 外観
1.サーモメータ本体
全体がブラック、一部にブライトイエローの色使い。
右側面。
表示窓と操作ボタン。
液晶部分の大きさは▢28×28mm。
赤外線受光レンズ部分。
中央に受光口、その上下には縦穴のレーザーマーカ照射口2つ。
受光口内は、乱反射防止のためか凸凹が刻まれている。
左側面には「Infrared Thermometer(赤外線温度計)」の表記。
2.キャリングケース
全身まっ黒で特にロゴなども無し。
蓋はベルクロテープ止め。
裏にはベルト用ループがある。
ぴったりサイズのためか、収納時に先端が引っかかり入れ難かったりする。
4 サイズと重さ
1.サーモメータ本体
大きさは約172mm×119mm。
胴部分の幅は約47mm。
グリップ部分の幅は約36mm。
受光レンズ部分の内径は約Φ17mm。
レーザーマーカ照射口の距離は約35mm。
重さは電池込みで251g。
2.キャリングケース
高さ195×幅130×厚み60mm(約)。
重さは74g。
FT3701 使い方
1 電池
電源は単4乾電池×2本を使用。
中華など海外製に未だ9V電池の製品が多い中、3V(1.5V×2本)なのは良いこと。
本体のグリップ部分に乾電池を入れる。
製品にはTOSHIBA製の単4乾電池が付属しているが、ここはPanasonicを用意。
グリップに指掛け部分があるので、ここに指を掛けて、
矢印方向にひねる様に引っ張ると、電池カバーが開く。
アルカリ単4電池を2本入れる。
2 操作部と表示部
電源は測定トリガー(下図5)を一瞬引くとオンになる。
測定法方法はとてもカンタン。
対象物にレンズ(下図6)を向けて、測定トリガー(下図5)を1秒以上引くだけ。
3 放射率の設定
測定する対象物によって表面の放射率が異なるため、測定前にサーモメータ側で”放射率の設定”をする必要がある。
放射率=物体が熱放出する赤外線エネルギーを数値化したもの
※鏡面体の放射率を0、完全黒体の放射率を1とするので、0~1の間の数値になる
今回はテスト対象として、製品のパッケージ(厚紙)を測定してみる。
取説にある『放射率表』によれば、紙・厚紙の放射率は「0.90」なので、これに従って本体の照射率設定を変更する。
初期設定では、放射率は[E 0.95]に設定されている。
これを変更するには、”放射率変更画面”にする。
中央のMODEキーを1回押すと、下段のサブ表示が[↓E↑]に変わる。
続けて▼または▲キーを押して、この数値を変える。
「0.01」ステップで変更が可能。
写真⇩では、▼を5回押して[0.95]から[0.90]にした
4 温度測定
1.随時測定
測定はいたってシンプル。
レンズを対象物に向けてトリガーを引くだけ。
およぞ1秒以内で測定温度が表示される。
トリガーを離しても自動的に[HOLD]になり測定値が表示されたままになる。
測定値は記録されないので、次の計測を行うと前回分は消えてしまう。
2.連続測定
連続して温度変化を測定したい場合はLOCK機能を使う。
LOCK機能は右下のキーを押すことでONになる。
画面表示にも[LOCK]の文字が出る。
LOCK中は、トリガーを引かなくても連続して温度を計り続ける。
LOCK中にトリガーを引くと、レーザーマーカが照射される(測定はそのまま続く)。
連続測定モードを解除する場合は、もう一度、右下のキーを押す。
5 レーザーマーカ
レーザーマーカ光は、測定対象が離れている場合に用いる。
赤い2つの点が照射されるので、レンズが向けられている部位を目視確認できる。
設定方法は、測定トリガーを引きながら、
左の▼キーを1回押す。
画面の左上に△マークが表れて、レーザーマーカ照射がONになる。
約60cm離れて測定してみた様子。
紙パッケージの何処を計測しているのかが目視で確認できる。
👉注意 ・・・レーザー光は決して人に向けてはいけない。
レーザーマーカをOFFにしたい場合は、再度トリガーを引きながら左▼ボタンを1回押すと解除できる。
6 バックライト
表示窓にバックライトをつけることができる。
測定トリガーを引きながら、
右の▲キーを1回押すとバックライトが点灯する。
バックライトは黄橙色。
バックライトモード中は画面の左上に💡アイコンが出る。
7 表示モード
測定中または測定後に、画面のモードを切り替えて、各数値を確認できる。
1.表示モード例
- MAX・・・最大値
- MIN・・・最小値
- DIF・・・最大と最小の差
- AVG・・・平均値
- HAL・・・アラーム上限設定
- LAL・・・アラーム下限設定
- E・・・・放射率表示(通常画面)
表示モードは、液晶画面下のMODEキーを1回押すごとに変わる。
測定直後のオートパワーオフ前であれば呼び出して表示することができるが、電源オフの後は消去されるので注意。
👉メモ・・・連続測定中の表示について
MAX・MIN・dIF・AVGなどの数値は、トリガーを引き続け連続測定している間も、MODEキーを押すことで表示される。
2.モード変更
表示画面下の中央MODEキーを使う。
下段サブ画面の初期表示は[E (Emissivity=放射率)]になっている。
MODEキーを1回押すと[MAX(最大値)]表示になる。
写真⇩の例では34.6℃
さらに1回押すと[MIN(最小値)]を表示。
写真⇩の例では34.3℃
さらに1回押すと[dIF(最大と最小の差)]を表示。
写真⇩の例では0.4℃
さらに1回押すと[AVG(平均値)]を表示。
写真⇩の例では34.4℃
3.アラーム設定
[AVG]の後、さらにMODEキーを押すと”アラーム”の設定に移る。
“アラーム”は、予め決めておいた上限下限の閾値を超えると音で知らせてくれる機能。
下段サブ画面が[HAL(High-Alarm)]の時に▲▼キーで上限温度を設定。
上限値に達するとブザーが鳴る。
写真⇩の例では[76.0℃]の設定
下段サブ画面が[LAL(Low-Alarm)]の時に▲▼キーで下限温度を設定。
下限値に達するとブザーが鳴る。
写真⇩の例では[マイナス60℃]の設定
設定後、もう一度MODEキーを押すとモードが一巡して初期の[E]に戻る。
まとめ
使用感
良いところ
1つめ。
物に触れず温度を計れるのはとても便利。
2つめ。
1~2秒の速さで温度がわかる。
3つめ。
測定トリガーを引くだけのカンタン操作。
良くないところ
1つめ。
放射率の設定がちょっと面倒。
放射式温度計の仕様なのだが、きちんと設定しないと表示が不正確になる。
2つめ。
測定値の記憶が出来ない。
電源オン時は値を読めるが、電源オフになると測定値は消えてしまう。
オートパワーオフを解除することもできないので、オートパワーオフする15秒以内に確認しないといけないのがつらい。
3つめ。
気温や体温が測れない。
またガラス向こう側や水中のモノなど赤外線を100%通さない場所には不適。
4つめ。
防水防塵ではない。
なので雨天下や埃の多い場所では使用できない(使用したら故障するかも)。
5つめ。
絶対に汚してはいけないレンズ部分にカバーがない。
ソフトケース(キャリングケース)が付属しているのは良いが、受光レンズ部分専用のホコリ除けカバーがあるとうれしい。
まとめ感想
手の届かない場所の温度を計るのにとても便利なサーモメータ。
エアコン送風口の温度、調理中の器具の表面温度、炎天下のクルマや壁など・・・
今まで知らなかった様々な温度を知ることができるのは楽しい。
ただ家庭で日常的によく使うかと言われれば(たぶん)そうでもない。
たまにあったら便利、でも用が済めば放置される系、とも言える。
また値段もそこそこする。
「遠距離でも狭い測定範囲で計れる機種ほど高価になる」傾向にあり、例えばHIOKIでもFT3701はFT3700の約2倍の実売額になっている。
なので購入時は使用目的をよく検討すべき。
このHIOKI製サーモメータで言えば、
近い距離(2m以内)でしか使わないなら、FT3700で十分である。
それ以上の距離でも使う場合があるなら、FT3701ということになる。
参考
他社のグリップ型サーモメータ(参考)
D:S=30:1クラスのライバル機種たち。